国本武春 ベンベン旅日記(2) おばあちゃん天国

本日の国本、うなる代わりに旅日記とまいりましょう あがった あがった 〜 2001.1

 最近、多少ではあるが寄席に若いお客さんが増えてきた。とは言ってもやはり本格的な浪曲ファンはほとんどがお年より。それも七十歳以上の方々が主流である。
 したがって客席に活気がみなぎっている・・とはチト言いにくい。拍手をしないなんと言うのはまだ良いほうで、始まってから終わるまで首をうなだれたままピクリとも動かないお年よりが居たりする。
 ただ寝ているだけ、というのならいいんだけれど、お年がお年なだけに「もしかしたら・・・」なんて浪曲をうなりながら心配になることもしばしば・・。

 しかしこれが全国各地、旅の仕事で出会うお年寄り、 特におばあちゃんとなるとちょっと様子が変わってくる。どこのおばあちゃんも元気で陽気で積極的。 私のような駆け出しの芸人にも、「若いのに浪曲なんて偉いね~」「まあ~いい男だね~」「しっかりがんばりなよ!」などとたくさん声をかけてくれる。若い女性には全く縁の無い私もここではモテモテ、まさにおばあちゃんのアイドル。

 そんな私がまだ浪曲師になったばかりの頃、 先輩の師匠方と新潟の山奥の村に行ったことがある。山また山を何時間か車で走りようやく着いた会場の公民館。こんな山の中の村に人が居るのかな~と不安な気持ちで会場に入ると、うわ~居るわ居るわ、まるでおばあちゃんの見本市。
 聞けば朝早くから何時間も並んで入場したらしい。持参した座布団にすわり、お弁当を広げ本当にこの日を待ちに待っていたと言う雰囲気。なんともいえないその楽しそうな空気にすっかり感動してしまった。

 しかも感動はそればかりじゃあなかった。 なんと入門したての私のへたくそな浪曲がうける。それも並のうけ方じゃない。笑うところは大爆笑、泣かせる場面はみんなが泣いて終わりは割れんばかりの拍手の嵐。「まるで夢を見ているよう」とはまさにこのこと。
 そして、そして極めつけ!帰りのタクシーに乗り込んだ我々一行を見送りに出てきたたくさんのおばあちゃん達、 なんと一斉に手を合わせ、帰る我々を拝んだのである。

 あ~、なんとありがたい事か・・まさに浪曲師のまわりは「おばあちゃん天国」なのである。 〜♫ベンベン 



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