アルバム「福助」のころ 1990
笑って、笑って、ちょつぴり泣かせる、ご存知浪曲界のはみ出し野郎、三味線ロックの国本武春。二月二十一日、ビクターから待望のCD第一弾『福助』が発売になる。
その発売記念ライブを東京・名古屋・大阪・福岡と連続で行うに至って、いよいよその笑いも全国規模となってきた。
彼の場合、一昨年、邦楽ジャーナルで「国本武春の浪曲版忠臣蔵」を主催した時もそうだったが、浪曲協会の会長がわざわざ応援にかけつけるなど、浪曲界全体が、そのはみ出し”を認める、いや、大いに応援しているのだ。他の邦楽界ではちょつと考えにくい。
国本武春のステージは「そりゃもう大騒ぎさ」。抱腹絶倒、間違いなし。でもそこは浪曲師、”泣かせ”も心得たもの。曲の合い間の喋りは、臨機応変、それこそ商売、お手の物。でも「喋り出すと一日でも喋ってるんで、極力音楽にいくようにしてます」とは本人の弁。
●『ロックンロール次郎長伝』はエンジン全開大爆発。「さぁ一緒に敬うんだ!・立ち上がれ! 盛り上がれ! 躍りを躍るんだ! よぉし、立ち上がらないんだったら国本が立ち上がるぞ- ウォー」。
●福助
国本武春+国本バンド/うた絵巻「花さかじいきん」・偉人伝にのみや・出世美談「大声太郎」・ロックンロールうらしま・富士山’88・おいらとお前のバラード・ロックンロール福助
〔ビクター・V-CG3・3000円〕
※アルバム「福助」 今は廃盤で、入手困難 「 おいらとお前のバラード」の新録音がアルバム「武春」に収録されています。
「とにかく、面白いものをやって、そこにお客 さんが集まるという、あたり前の現象をまず作ら ないとね」
そう思った彼は、津軽三味線の佐藤通弘と組 んでやってみたり、自分の新作浪曲を発売してみ たり、そして三味線ロックへとつながっていく。
流行歌を三味線で作る
「いろいろやってた時に、やっばり新しい歌を、 新しい節を作らないといけないって思いました ね。今、こぶしを回す節自体が古いから。結局浪 曲って当時の流行歌だから、子供からお年寄まで みんなで口ずさめた。一席知らなくても、「旅行 けば~」って頭のところだけは子供も唸れたみたいに、そういう流行歌を僕が三味線で作らなけれ はいけないんじやないかっていう。それから聞きこんでいって、後で話がついてきたりするもんな んだから」
「最初、浪曲のお師匠さんに弾いてもらおうと 思ったんですけど、六十、七十のお師匠さんに『そ このところ、ちょつとロックンロールで』なんて 言ったってできないわけですから、それならヘタクソなりでも自分でやっちゃおうと。で、ちゃん とこぶしが回らない歌を勉強しなきゃと思って、 ボーカルの学校にシャレで通ってね。そこで今の メンバーに出会って、(三味線ロックの)ライブ活 動始めたんです」
パターンじやなくてハートだ
「浪曲に限らず、今の若い人達は日本の音とか 音楽からあまりにも離れすぎちやつているから、 浪曲までお客さんを寄ぶのは大変な作業です。例 えば、忠臣蔵をパロつたって、忠臣鹿を知らない 若い人達が多いから分かんないわけですよ。清水の次郎長やっても、石松っていうやくざもんの気性が分かんなけれゃ、ギャグが通じないわけですよ。
そしたら結局『うらしま』とか『花さかじいさん』っていう、誰でも知ってるところからやって いくことになる。だったら親だとか学校の先生達が、ヘタクソな会話でやったものを、商売人の僕 がピッチリしたかたちで、メロディーも付けて、 語りものとして聞かせようという、サービス精神 でいろいろやってきたんですけど、やっているう ちに自分でもこっちの方が面白くなっちゃつた。 パワーも出るんですよ」
「やっばり言葉もよく分かるし、話もよく分か るってところから物語、始まっていかないといけないんじやないかな。テーマさえしつかりしてい れば、あとはパターンじやなくてハートだってい ぅところがすごくあるから、それは今やってる ロックについても同じでね。別にかたちじやないんだ。最終的に忠臣蔵をロックでやったり、浪曲 でやったり、ただ忠臣蔵を語るには浪曲というか たちが最高という自論はありますけど」
彼の三味線ロックは、つまるところ彼の浪曲 なのだ。
ロックのリズムで躍る日本語
「多くの人が浪曲の空気だけを、空気でいいと 思うんですよ。『何だこれ。新しいけど懐かしい ね』って。出てくるのは二宮尊徳だったりして、昔、 教科書でしか習わなかったような名前だけど、 ロックのリズムの中に日本語が躍るような のが出るべきじやないか、それを三味線でできたらすばらしいじやないか、そこに物語りがつけば 浪曲じゃないか、というような感じで僕らやってるんですよね」
三味線の楽しさ、語り物の面白さを人に伝えられればって思っています。日本のものだって、外国と比べてもこれだけ面白いんだっていう」
みんな大衆芸能だったじやないか!「ニューヨーク行って浪曲やったりしましたけ ど、外人はとにかく着物きて三味線持ってりや、ブラボー、ビューティフルなんですよ。邦楽の人が結構海外でバリバリやってるのに、日本でファンがいないってのは、どっちかっていうと芸術志向に走ってしまうからですよ」
「みんな大衆芸能だったじやないですか。義太夫でも何でも、みんなはやったもんですもん。浪曲だって追っかけが出るほど……。だから、今みんなが追っかけるぐらいのアイドルが、そん中から出てこなきやいけないと思うんですよ。それを その世界にしばられて、その世界の中でどうして 伝承していくかとか、あの先生にどうやって近づ けるかとか・・・・。そんなんじゃないと思うんです よ。未熟でもいいから、どんどん自分のパターン を作っていかなきゃ」
「浪曲ってごっちゃでいいから、はやればいい、 面白ければいいというところがあって、僕なんか 自然にこんなことできるんですけど、他の邦楽 やってる人からみれば、何やってやがんだって思 うかもしれない。僕がこんな風に三味線弾くのも、 シロウトだからできるのかもしれないです。だけ ど、少なくとも三味線弾いて、歌を歌って、面白 いやつが出てくることの方が先決じゃないかって 思いますよ」
「僕ら、これから仕事をしていくのにね、同じ年代 と一緒にいかないといつまでも続かない、切羽詰まってる わけですよ。だから、その時に高飛車じやなくて、 あたり前のことが三味線でできる、あたり前のこ とが浪曲になるんだってことをアピールできれば いいんじやないかと思うんですよ」
自分の世界を
「以前は浪曲で昔の美談だとか何かの中に、自 分の言いたいこと を少しずらしてやってきたんだ けど、やっぱりストレート にこれを言いたい、世 の中こんな風にちゃかしたいとかっていうのが自 由にできれば、これは楽しいですよ。だから借り もんじゃなくて、自分で作る。文句から歌から自 分で作って、それを三味線でやる。ってことは僕だ けの世界でしょ。それを聞いて、あの三味線だっ たら簡単だからできそうだとか、あんな歌だった らカラオケで歌いたいなとか、同志がどんどん出 てくれば、日本の文化、捨てたもんじやないし、 盛り上がるんじやないかなって思うんです」