国本武春 ベンベン旅日記(13) ノドから血を吐くまで(♫浪曲師は唸ってナンボ!)

本日の国本、うなる代わりに旅日記とまいりましょう あがった あがった  〜2002.01

 今からおよそ80年前、 国技館に一万人もの観客を集めて「浪曲大会」が催された。 今でこそ武道館や東京ドームでのコンサートなど当たり前だが、 80年前となるとマイクも無い時代。 「えっ?それじゃどうやって一万人ものお客さんに浪曲を聞かせたの?」 答えは簡単、大きな声でやったのである。

  「えーっ!うっそー!そんなんじゃ聞こえないでしょう。 一体お客さんはどんな風にして浪曲を聞いていたんですか?」 これも答えは簡単、静かに聞いていたのである。 本当にそれだけなのかと言うと、もちろん他に工夫が無かったわけではない。 なんと会場の天井の端から端へ針金を張り巡らせたらしい。 声にその針金が共鳴して響きが良くなるだろう、と考え出されたようだ。 本当かな、と思ってしまうが、 実際、その当時その場に居たという今は亡き私の師匠も、 「結構良く響いてたよ。」 と言っていたので、まんざら効き目が無かったわけでもないらしい。

  とは言うものの、やはりその頃は声の弱い人、声の小さい人は致命的で、 芸が上手い下手以前にお客さんまで声が届かないのだから話にならない。 その頃の「声のよさ」と言うのは 今とチョット基準が違って、声の強さ、大きさ、広がりなどを 重視していたのではないかと思われる。 オペラの「ベルカント唱法」や浪曲の「胴声」などは、 マイクの無い時代、いかにすれば響く声になるのかと 研究に研究を重ねた結果の高等技術なのである。

 だからと言ってマイクのある現在は声を鍛えなくて良いという訳ではない。 やはり浪曲師はいつの時代も声を鍛える。 ノドから血が出るまで声を鍛錬する。 何度も何度もノドから血を出して初めて本当の浪曲師の声になる。 私の先輩のイエス玉 川師匠が 「俺もこの前、ついにノドから血を吐いたよ。」 「へー、稽古のし過ぎですか?」 「いや、飲みすぎで。」 飲みすぎはいけない。そういう私も先日大きな声を出していたら血が出ていたので、 「おおーっ、ついにノドから・・・」 と思い鏡を見たら、歯ぐきから出ていた。  〜♫ベンベン 


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