国本武春 ベンベン旅日記(15) 早すぎた才

本日の国本、うなる代わりに旅日記とまいりましょう あがった あがった  〜2002.01

 高校時代は柔道部に所属していた。
 その柔道部で、私はレギュラーが万一の時に出場する「準レギュラー」と言えば聞こえは良いが、つまりは控え選手。早い話が補欠であった。

 その柔道部時代、県大会にのぞんだ時のことである。
団体戦で、一、二回戦を勝ち抜き、もう一試合勝てばベストエイトだと意気込んで望んだ三回戦。
 その直前、監督の先生に呼ばれ、「二年生の調子があまり良くないから、試合の状況によってはお前に出て貰うかもしれない。準備しておけ!」
・・・こんな肝心な試合にもしかしたら出る事になるかもしれない・・・

 緊張と不安のまま三回戦は始まった。まずは先鋒の二年生。開始早々からかなり苦戦している。私は、「先に、先に!足だ、足!もっと技掛けろ!先に技!」などと声をふりしぼって声援を送った。
 しかし残念ながらその先鋒は敗れてしまい、続く二番手もこれまた苦戦。ここで負ければ後がない。団体戦は五人ずつで戦うため、先に三人勝った方が勝利となる。この二番手が負けると、次は先生が話していた調子の落ちている二年生。
・・・これはもしかすると次は自分の出番になるかも・・・
心の中でそう思いながらも、相変わらず苦戦を続ける二番手の選手に、
「前だ、前!先に、先に!そこだーっ!いけーっ!」声を限りに声援を送っていた。

 すると突然前に座っていた監督の先生がクルッと私の方を振り返り、「加藤!」
加藤と言うのは私の本名。
・・・ついに名前を呼ばれた。心がまえは出来ている。よーし次は俺に任せろ!・・・
という気持ちで力強く「ハイッ!」と返事をすると、先生は、「もうちょっと静かに応援しろ!」

 自分は夢中になっていて気がつかなかったが、私の応援の声がとんでもなく大きかったらしい。今思えば、あの時すでに柔道より浪曲の才能の方が上回っていたようだ。 〜♫ベンベン


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